鹿毛はり灸院

鍼灸専門家による東洋医学の治療院:新座市、朝霞市、志木市、西東京市、東久留米市、清瀬市、練馬区
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東洋医学と治療法

現代医学の多くは「対症療法」と言われ、 症状に対する治療です。 ですから症状の数だけ治療することになります。
東洋医学の最大の特徴は「随証療法」です。 詳しくは、このページの 「◇東洋医学の特徴」をご覧ください。

荻生徂徠の言葉を紹介します。
『下手医者の治療は、淡あれば、淡の加減をし、 熱あれば熱をさまし、 不食ならば、脾胃を補い、 寫あれば、寫を止め、 咳あれば、咳の加減をし、 一色も残さじと加減配剤、
理窟はきこえたるようなれども、病はいえぬなり。
暫く効あるに似たるれども、 またあとより再発し、あるいは外の変化出来して、病おもり、終に死に至るなり。
上手の医者は、 あきらかに病原をみて、様々な症あれば、病の根本、あるいは疝気なりとみて、疝気を治し、 あるいは虚なりとみて補えば、諸症一々に治するに及ばずして、おのずから癒ゆるなり』

上の、下手医者の治療が「対症療法」であり、上手の医者の治療が「随証療法」です。
荻生徂徠
wikipediaによると、江戸時代中期の儒学者、思想家、文献学者。 父は江戸幕府第5代将軍徳川綱吉の侍医、弟は第8代将軍徳川吉宗の侍医を務めた。 兄も意舎で、意舎の家系です。

  • ◇歴史
  • ◇陰陽、五行
  • ◇気とは
  • ◇病気のメカニズム
  • ◇治療法
  • ◇東洋医学の特徴

  • 足ツボ、何々マッサージ、何々療法などが満ち溢れていますが、これらを東洋医学と称したり、東洋医学だと思っている人も多いと思います。
    鍼治療にしても、その多くは現代医学的な治療が多く、東洋医学を踏襲している治療家は少数派なのです。
    東洋医学というと何か不思議な感じ、特に「気」というと不思議なもので、手から気が出て病気を治すなんていう治療家がありますが、そういったものではなく、きちっとした理論が備わっており、生理観や病理観、診断法、治療法が確立したものなのです。
    膨大で難解な東洋医学について、その雰囲気だけでもご理解していただければと思いご説明いたします。
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    ◇歴史

    長い年月にわたって、中国大陸の広い地域で積み重ねられてきた医療経験は、やがて自然哲学を背景とする思想によって、中国固有の医学体系としてまとめあげられてきました。

    この中国医学は、古来から伝承された古典的な理論によって組み立てられています。

    古典理論は、中国漢代に集大成され、この思想により形成された医学を漢方医学と呼んでいます。 また、この医学は、中国や日本、朝鮮半島をはじめ、インド、中央アジア、西南アジアにも及んでいるところから、この医学を東洋医学とも呼んでいます。

    東洋医学(漢方医学)の歴史は三千年・四千年といわれています。 紀元前後に中国最古の医書である黄帝内経(素門、霊枢)が著されました。 これは総論的な内容で、鍼灸の体系的な治療法は、難経(黄帝八十一難経)に引き継がれたようです。 当治療院が行う経絡治療はこれらの古典が基になっています。

    湯液(漢方薬)は傷寒雑病論(傷寒論、金匱要略)が古典として現代に伝わっていますが、これを解するには、黄帝内経を理解する必要があります。 素門や霊枢には現代で言う「生理学(身体の働く理論)」「病理学」や食の養生などが記述されていて、鍼灸治療だけでなく傷寒論の基礎ともなっています。

    傷寒論の序文に「全ての病気は治せないかもしれないが、傷寒論を読めば病気の原因くらいは知れるだろう。 なお良く研究すれば『あ、そうか。なるほど』と思うところがあるぞ」という意味のことが書かれています。 始めの部分は脉診(みゃくしん)が多くありますし、僅かですが、傷寒論の中にも鍼治療のことが書かれています。 鍼灸治療に傷寒論は必要ないと言われていますが、私は大変参考になると思っています。

    東洋医学は聖徳太子が中国から導入し、以来明治まで受け継がれてきた伝統医術です。 明治になると漢方薬は医師に、鍼は鍼師に、按摩はあん摩師にと分かれました。 しかも西洋医学を学ばないと免許が取れない仕組となり、当然治療法も西洋医学的になり、東洋医学本来の効果を発揮できなくなりました。

    昭和になり、これでは鍼灸は滅んでしまうと数人の治療家が「古典に帰れ」のもとに、伝統的な鍼灸術を復活させたのです。

    現在でも伝統的な鍼灸術は少ないのですが「黄帝内経(素門、霊枢)」、「難経」などを源として発展してきた伝統的な東洋医学本来の治療法を「経絡治療」と呼んでいます。

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    ◇陰陽、五行

    東洋医学は、古代中国の自然哲学思想である陰陽五行思想を基盤として構築されている臨床医学ですから、当然のことながら、その時代の物の見方、考え方をまず理解する必要があります。

    『天地未だ定まらざる世界を太極といい、太極動いて陽を生じ、沈んで陰を生ず。陽は天の気となり、陰は地の気となり、もって万物の相定まる』

    東洋医学における基本的な思考様式は、哲学的な自然認識法です。 自然界におけるあらゆる事物には、常に相反する2つの側面が存在しています。

    宇宙には天(陽)と地(陰)があり、1日には昼(陽)と夜(陰)があり、人には男(陽)と女(陰)があり、内臓には腑(陽)と臓(陰)などがあります。

    陽とは陽の光がさんさんと降り注ぎ、まぶしいほどに明るく、暖かく、乾いた日向がもつ特徴から生まれた概念で、陰とは常に物陰となっている暗所、薄暗く冷気が漂い、じめじめと湿った日影のもつ特徴から名付けられた概念です。

    このような考え方を基礎にして、東洋医学における陰陽概念が定義されています。

    陽とは、一般に動的・積極的・男性的・開放的・熱性傾向の総称です。 また陰とは、一般的に静的・消極的・女性的・潜伏的・寒性的傾向の総称です。 ついでながら自然界における陽と陰の対比の例としては、天と地、日と月、昼と夜、外と内、表と裏、春と秋、夏と冬、動と静などをあげることができます。

    人の生命は、父母両性の交わりによって誕生し、陰陽両気の調和によって健康を保持し、その不調によって病をおこし、陰陽二気の分離によって死に至ると考えられています。 つまり、病気は陰陽の気の不調和だと言っているのです。

    五行とは、木、火、土、金、水の五種の物質です。

    中国の古代人が、日常の生活とその生産活動の中から不可欠の基本物質として認識したのがこの五種の物質です。 木は樹木のことですが、燃えて火を生みます。 木や葉は燃えて土になりますが、これは火が土を生むことになります。 土は固まって金や石となります。 そこに水が流れます。 水は木を生みます。

    そして五行論は、あらゆる事物と現象を5種類の基本的な要素に分類しました。 五行の表にある縦の列が同じグループで、共通した性質を持っています。 つまり、その中に働いている気が同じということになります。

    五行の間には相生、相剋などの理論(法則)が働いています。 相生とは母子関係とも言い、仲の良い関係で木と火、火と土、土と金、金と水、水と木です。 木は火を生むのですから母子関係です。 、相剋とは互いに相手を剋する、つまり片方が優位になれば片方は抑えられるという関係です。

    この五行にも陰陽があります。 陽の最も強いものが火で、陰の最も強いのが水です。 陽から順に並べると、火、木、土、金、水となり、土は陽と陰の中央になります。

    この五行は、そのまま疾病の診断や治療に応用されています。 人体は、五臓の陰陽の調和によって健康が保たれ、その調和が破られることによって、病になるという考え方が根本になっています。

    【五行の表】

    五行
    五臓
    五腑小腸大腸膀胱
    五根口唇
    五主血脈肌肉皮膚
    五変吃逆
    五精意・知精・志
    五志憂・悲恐・驚
    五悪湿
    五邪飲食労倦湿
    五役
    五色
    五香燥(肉月)
    五味
    五声
    五液
    五音
    五季土用
    五方中央西
    五労久歩久視久座久臥久立
    以上は一部ですが、鍼灸治療においてよく使われるものです。

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    ◇気とは

    元気、気力、気持ち、気分、気体、空気など、気という文字がつく言葉が数多くあります。 単に気というと、何か良くわからないが何となく不思議な力があるような感じがして理解困難ですね。

    東洋医学で言う気とは不思議なものではなく、きちっとした概念なのです。 それが時代が経つにつれて、だんだんと不思議なものになっていったのではないでしょうか。

    気の概念は2種あります。

    一つは、自然界の温度や湿度、風の弱い強い(気圧に関係)などの状態を気の働きと考えました。 私たちは空気という「気」の中で生きています。 空気が動けば風となり、空気が温まれば暑となり、冷えれば寒となり、乾燥すれば燥となり、湿度が上がれば湿となります。 五行の表にある五悪にでてきますね。 また、呼吸によって天の気を体内に取り入れてエネルギーにしています。 このように人間は自然の気を受けて生活しています。

    自然界の気に適応して生活することが養生法となり、これを天人合一思想といいます。

    2つ目は、消化力、排泄力、体温調節など人体の働きの全てを気の働きと考えました。 その働きのうち、動的なものを陽気、静的なものを陰気と表現しました。 ではこのような気がどのようにして作られるかを説明します。

    私たちは呼吸によって「天の気」を取り入れ、食事によって「地の気」を取り入れています。 食事をすると、胃の消化によって気が作られます。 これに胸の肺の気が作用して、栄気(血または栄血とも呼ばれる)と衛気に区別されます。 栄気は寒で静の性質を多くもっていて、陰気に属します。

    その働きは、身体内部にあって、身体を栄養し生命を維持しています。 栄気は肺から全身に送られますが太陰肺経を通って大腸経、胃経の順で全身に送られます。

    ここで新しい言葉が出てきましたが、栄気は経脉という12種類のルートを順番に巡って行きます。 経脉は栄気が巡る道で、太陰肺経、陽明大腸経というような名前がつけられ、その経脉からは絡脈という枝がたくさん出ていて、そのうちの1つが次の経脉に連絡しています。

    歴史のところで「経絡治療」と紹介しましたが、経絡という言葉は古典の医書には出てきません。 経脉と絡脈を合わせて「経絡」と言ったのです。

    このように経脉は絡脈を介して全身を1本のループのようにつながって巡っていて、栄気は、一日一夜で全身を50周します。

    衛気は胸にある肺から直ちに体表に一番近い陽の性質を持つ経脉に行きます。 やはり全身を巡りますが、栄気と違って経脉の中を通りません。 経脉の外を通って昼間は陽の部位、夜間は陰の部位を巡ります。 衛気は主に体表面を衛っています。 肌肉を温めたり、皮膚を充実させ、発汗させたりして外部から身を守る働きをしています。

    実際にはもっと複雑で、いろいろな働きや巡り方をしていますが、基本的な部分を説明してみましたが、お分かりでしょうか?

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    ◇病気のメカニズム


    説明に入る前に、虚と実の概念を知っておく必要があります。 虚とは空虚な状態で、実とは充実した状態です。 経脉の中を流れる気が空虚だと「虚」で、充実していれば「実」です。

    歴史のところで紹介した素門、霊枢、難経の多くの部分は、黄帝とその臣下である医師団との問答形式で書かれています。 素門の通評虚実論には以下のような記述があります。

    黄帝:なにおか虚実という。
    岐伯答えていわく:邪気盛んなるを実、精気奪われるを虚。

    岐伯先生は、邪気が盛んになったのを実、精気が奪われたのを虚と言っています。 ここでいう精気とは、衛気や栄気を含めた「気」全体だと思ってください。 精気は精神的動揺(五志)、労働(五労)、飲食の過不足(五邪の一部)などにより不足します。

    この精気が不足した虚の状態のところに外邪(五悪、五邪)が侵入して実となります。 多くの場合、この状態が病気で、症状が現れてきます。

    【五行の表の一部】

    五行
    五臓
    五志憂・悲恐・驚
    五悪湿
    五邪飲食労倦湿
    五労久歩久視久座久臥久立

    例えば、親しい人に不幸があり悲しみにくれているとすると、肺に関係した気が虚してきます。 上の表の五志に「悲」がありますね。 「悲」の上に「肺」があります。 この肺に関係した気が虚になった状態で、五邪の寒にあたると、かぜを引いてしまったというようなことになります。 肺とは、狭義では肺臓ですが、広義では呼吸器系全体を指します。

    また、五労のところに、「久立」があり、臓のところには「腎」があります。 長時間立ち仕事をしていると、腎に関係した気が虚してきます。 腎の気は陰性が一番強く、陰は上に上る性質があります。 この陰の気が虚してしまい、上に上らないと、上にある陽の気が下りて来られません。 陽の気は身体を温め、陰の気は冷やすのですが、下半身には陽気が不足するので冷えてしまい、そこに寒の邪が侵入して腰が痛くなったり、神経痛の症状が出てきます。

    これは上下の陰陽の気のバランスが崩れた状態です。 どうして寒邪が侵入すると腰痛になるのかは複雑になるので説明はいたしませんが、素門の挙痛論などに記述されています。

    まとめますと、多くの場合五臓に関係した気が精神的な動揺(現代で言うストレス)などによって虚の状態になると、その隙に乗じて邪気が侵入して病気が発症します。

    現代医学ではストレスが健康に影響を与えると言うことがわかったのは近年のことですが、古代中国では数千年も前からわかっていたのです。 しかも、単にストレスというのではなく、どのような精神的ストレスが、どこに影響を与えるかがわかっており、それを治療に応用するのですから驚きです。

    、五臓に脾というのがありますが、現代医学では脾臓というのはリンパ節の親玉のような臓器ですが、東洋医学の脾とは膵臓を含めた消化器系全体のことです。

    蛇足ですが、江戸時代に杉田玄白が解体新書を著したときに、脾と膵臓を入れ替えたと言う説があります。 西洋の解剖学の外国語の部分に日本語をあてはめるときに、現代の膵臓のところには東洋医学でいう脾臓とすべきところ、脾は、にくづきに卑しいと書くので、大変重要な臓器である膵臓に卑しいという文字を当てなかったという説と、間違えたという説があるようです。したがって、東洋医学では膵臓という名前は出てきません。

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    ◇治療法

    前にも述べましたが、病気の原因は陰陽の気の不調和ですから、治療の原則もまた陰陽の気を調整することにあります。

    栄衛の気は身体の陰陽の部をくまなく巡っています。 病気になるのは、この栄衛の気が陰陽どちらかの部位に偏るからです。 その偏りは十二経脈の異常として現れます。 十二経脈とは前にも書きましたが、太陰肺経などと名前がついた12種類の気の巡る道です。 これは一本のループのようにつながり全身を巡っています。 治療はこの各経脉の気の虚と実を診断し、虚には気を補い、実は邪気を奪えば良いのです。 気を補うのを補法、奪うのを瀉法といいます。

    例えば先に説明したかぜの例ですが、この場合は肺に関係した気が虚したためだと書きました。 治療はこの肺経に補法を施して、肺経を巡る気を補いますと、邪気が去って症状が改善されることになります。 実際には経脉が12本ありますから、どことどこの経脉が虚して、どこの経脉が実しているなどと複数の経脉が影響をうけていますから、治療はもっと複雑になります。

    それでは補法や瀉法は、どこに鍼をするのかということになります。 これは所謂ツボなのですが、私たちは穴とか経穴と言います。 ツボの多くは経脉上にあり、気が出入りするところで、診察点や治療点となります。 つまり経脉上の穴だから経穴なのです。 以後の説明ではツボを経穴と書きます。

    ここでもう一つ重要なお話をします。 東洋医学(もちろん漢方薬も含めて)の治療には本治法と標治法があります。 本とは病気を起こした原因を言い、その病因から直接現れた病症を主症と言います。 その主症を治療する方法を本治法といいます。 例えば悲しみによって肺経が虚したために、悪寒して発熱したとしますと、肺経を補うのが本治法です。

    標とは枝葉のことで、患者さんが二次的に現す症状を標といい、客症といいます。 その客症を治療する方法を標治法といいます。 かぜを引いた後に肩がこったなどを治療するのが標治法ですが、直接肩に鍼を施すのではなく、主に手足の経穴を施術します。 しかし根本原因である肺経が本治法により良い状態にならないと、肩こりも根本的には治りません。 ですから肩こりは肩に、腰痛は腰に鍼をするというだけでは一時的に症状が和らいでも、根本的には治りにくいといえます。

    また、東洋医学では経脉の気を調整するための重要な経穴(要穴)は、肘や膝から先にあります。 ですから治療は手足が中心となります。

    漢方薬の治療の考え方についても簡単に述べてみます。 傷寒論には熱病のことが詳しく記されています。 「かぜ」も熱病です。 湯液(漢方薬)を扱う先生なら一度は勉強される書物です。 傷寒論には生理や病理が少ないので、素門や霊枢を先に勉強しないと傷寒論を理解するのは難しいと言う先生もいます。 熱病の全てが載っているわけではなく、これを理解することによって、その他の病気に対しても応用が効くのだということが書いてあります。

    陰と陽についてはすでに説明しましたが、陽はさらに3つに分けて、太陽、少陽、陽明、陰は少陰、太陰、厥陰のそれぞれ3つに分けられます。 例えば五邪にある風邪が身体に侵入する場合、先ず一番表である太陽に侵入しますが、それが段々と内側に侵入してきて奥深く入ってきます。 その順番は、太陽、少陽、陽明、太陰、少陰、厥陰ということになるのですが、飛び越えたり、途中から病気が始まることもあります。

    太陽病の例、つまり太陽の部に外邪が侵入して発症した例を説明します。 症状は悪寒して頭や項が張ったり痛く感じ、脉は浮、実となります。 脉は手首のところに触れる橈骨動脈で診ますが、その脉が浮いていて強い状態です。 悪寒とは寒さを嫌うということで、発熱していたとしても寒い状態です。 寒いと言うことは身体が震えますが、震えるということは熱を作ろうとしている状態です。 もし、暑いという場合は太陽病ではなく、陽明病に進んだ状態で、漢方薬も異なります。 汗はまだ出ていません。 この表の部分に侵入した外邪を迎え撃つために、精気が表の部分に集まってきます。 したがって脉は浮いて強く打ちます。 脉が実ということは精気が充実していることを意味します。 つまり外敵と戦う兵力が十分にあり、それが表に集まってきているのです。 この場合の漢方薬は「麻黄湯」を用います。 同じような症状でも悪寒がないという場合に、葛根湯や桂枝湯を服用すると悪くなることがあります。 かぜならなんでも葛根湯というのは間違いで、太陽病から少し進んで胃腸症状がある場合に葛根湯が適応します。 もし脉が浮で虚(弱い)の場合で、じわっと発汗しているような場合は「桂枝湯」を用います。 これは子供や老人など体力のない場合で、外敵と戦う力が弱いので、表で戦いが起こらずに、すぐに突破されて内部に侵入されてしまうのです。

    まとめますと、「かぜ」の初期症状は太陽病ですが、悪寒があってまだ発汗していなく、脉が浮で実の場合は外邪を追い出す体力があるので、麻黄湯で発汗させて外邪を追い出します。これは瀉法です。 脉が浮、虚の場合は、外邪を追い出す力がありませんので、桂枝湯で補い発汗を促します。これは補法です。 同じような症状でも、瀉法しなければならないところに補法をするとますます外邪の勢いが増しますし、逆に補わなければならないところに瀉法をするとますます精気が衰えて症状は悪化します。 このように、症状は同じでも診断によって漢方薬が変わりますし、全く別の病気でも漢方薬が同じということもあるのです。

    現代の薬は統計学的にこの症状にはこの薬が何パーセントの人に有効だから、この症状にはこの薬ということになっています。 ですから万人に有効だとは言えませんし、症状が同じであれば同じ薬と言うことになります。 東洋医学では一人一人の気の状態が異なりますから、症状だけ聞いても薬は出て来ません。 鍼と同じように、脉診なども含めた診察によって証が導き出され漢方薬が決まります。 皆さんは漢方薬はゆっくり効くから長期間飲んでいても安心だと思ってはいませんか? 漢方薬を服用すると身体が変わってきます。 身体が変われば薬も変わりますから、同じ薬を何時までも服用するのは間違いということになります。 もちろん、間違った薬を服用すると症状は悪化します。 東洋医学の考え方を、「かぜ」の初期を例に傷寒論から説明してみました。

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    ◇東洋医学の特徴

    1.陰陽五行説という論理学によって体系づけられている。

    これは前述したとおりです。

    2.病人を全体的に診る方法論を備えている。

    現代医学と発想が逆で、大きく異なる点です。 お腹が痛くて下痢して熱を出しているとしますと、病院では種々の検査をして、「これは細菌による食中毒」と診断すると、治療は抗生物質の投与ということになります。 また、かぜを引いて咳と鼻水がでるというと、咳や鼻水を緩和させる薬が投与されます。 これはかぜを治すというのではなく、症状の緩和という対症療法です。 かぜの原因のほとんどはウィルスですから、これに対する薬はなく免疫によって自分の身体でウィルスを退治するしかないのです。

    このように現代医学は症状や検査から、だんだんと範囲を狭めて行き原因を特定して治療しています。 ですから原因が見つからないと治療が難しいのではないでしょうか。

    東洋医学では病気は身体全体の「陰陽の気のバランスの崩れ」だと説明しました。 なぜバランスが崩れるかというと、精神的な動揺などによって臓の気が虚して、そこに外邪が侵入して経脉などが虚したり実になったりして病気になります。 この12種類の経脉にも陰陽がありますし、上下や内外も陰陽です。

    次に東洋医学の診断法について簡単に説明します。

    診察は望診、聞診、問診、切診の4つのステップをとります。

    @望診とは、顔や手の色を診て臓腑などの診察をしますが、歩き方や体格なども参考にします。

    A聞診とは声や体臭などを診察し、どこの臓腑、経脉が侵されているのかを判断します。

    B問診とは、古典では味(五味)を問うのですが、現在の病気の状態や生活環境なども参考にします。

    C切診とは、脉を診たり、腹診と言って腹部の状態を診たり、手足の重要な経穴の反応などを触診します。 特に脉診は重要です。 東洋医学では鍼や漢方薬に限らず必ず脉診をします。

    3.診断即治療ができる随証療法である。

    上の4つのステップによって「証」が導き出されます。 この「証」が東洋医学の診断名ですが、病名ではありません。 診断と同時に治療法も示していますので、「診断即治療」であり、証に随って治療しますので「随証療法」といわれます。 証は前述のステップによって必ずわかりますから、治療ができないと言うことはありません。

    漢方薬では「葛根湯証」とか「桂枝湯証」と言う名前になり、葛根湯証は葛根湯を服用すればよいということになります。

    鍼灸では「肺虚証」とか「肺虚陽実証」などとなり、肺虚証は肺経と脾経を補うということになります。 肺経を補うとき使用する経穴は、病症や五行の関係や経穴が現している反応から選択して施術します。 なぜ脾経も補うのかは複雑になりますので説明しませんが、古典の難経六十九難に治療法則が述べられています。

    4.治療対象の範囲が広い。

    現代の多くの鍼治療は肩こり、腰痛、神経痛などの運動器疾患がほとんどですが、東洋医学による鍼治療は、江戸時代までは内科疾患や精神科疾患など、どんな病気でも治療してきた訳です。 診断のところで述べましたように、自然も含めた身体全体の陰陽の気の不調和を、十二経脈の変動として捕らえ治療しますので、どんな病気に対しても診断ができ、治療ができるのです。

    これは特定の病気に対する治療ではなく、その人がもつ自然治癒力とか生命力を健康な状態に近づけて自分の力で病気を治して行こうとするものですから、いろいろな病症に有効です。

    例えば「腎盂炎で高熱が頻繁にでて仕事を休んで病院に行かなければならない」という患者さんが来院されましたが、それ以外にも皮膚感覚が悪い、巻き爪で皮膚科で切ってもらっているなど多くの症状がありました。 治療後は腎盂炎で入院することはなくなりましたし、巻き爪も治り、そのほかの症状も改善しています。

    またギックリ腰で来院された患者さんですが、腰は当然良くなりましたが、加えて20年間もほとんど毎日できていた口内炎も治りました。

    このように多くの症状にたいして一括して効果が発揮されます。 現代医学では難病として治療法がない病気にもアプローチができますし、抗がん剤の副作用を軽減させて病院でのがん治療をスムースに進めることができたりと、いろいろな面で貢献しています。

    また、病気として症状が出ていなくても、気の変動を診察して、病気を未然に防ぐことができるのです。 現在で言う、予防医学に相当しますが、「未だ病にならざるを治す」ということも東洋医学の大きな特徴です。 超高齢社会においては、元気に歳を重ねたいですから、この役割は大変重要ではないでしょうか。

    以上述べてきましたように、東洋医学とは確立した医学体系であり、現代医学とは全く異なるアプローチをして、人間が本来備えている病気を治そうとする力を高めて病気の治療や予防に貢献しています。 昨日今日できたものではなく、数千年の経験が絶えることなく伝承されてきた医学です。

    漠然とした東洋医学というものが、少しでもおわかりいただければ幸いです。

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